11月18日~2021年2月26日

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映像制作/放送関連機材 2020.04.16 UP

【インタビュー】アストロデザイン 技術開拓リーダー 兒玉氏インタビュー NTTドコモ、MBS、ミハル通信と共同実施した「5Gを用いた8Kライブ伝送実証実験」の課題と展望

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3月5日「5Gを用いた8Kライブ伝送実証実験に成功」で発表した伝送実験のもよう。MBS毎日放送

 アストロデザインは今年3月、8Kを用いた放送のワークフローに関する以下の3件の発表をし、8Kを用いた番組制作のワークフローの実験を重ね、実用化へ向けた動きを強くアピールした。 また、3月6日には、韓国KBSから、8Kカメラシステム「AB-4815」を受注したことを発表している。

○3月5日「5Gを用いた8Kライブ伝送実証実験に成功」
○3月25日「“さっぽろ雪まつり”8K非圧縮映像伝送実験に参加 札幌・大阪間で8K3Dライブ映像を伝送」
○3月31日「ドローンを利用した8K非圧縮生中継実験に成功 関西テレビ放送様とアストロデザインが共同実施」

 中でも、NTTドコモ関西支社とMBS毎日放送、ミハル通信の3社と共同で実施した「5Gを用いた8Kライブ伝送実証実験」は、データ量の多い8K映像の映像素材伝送に5Gを用いるという点で、伝送のための設備を簡略化させ、より自由度の高い映像伝送が可能になる。将来的には スポーツ競技などの屋外ロケにおける番組制作や、8Kパブリックビューイング等の自由度を拡げ、ワークフローを効率化する可能性がありそうだ。

 「5Gを用いた8Kライブ伝送実証実験」では、既報の通り2月12-14日の3日間、NTTドコモ 関西支社とMBS毎日放送、ミハル通信と共同で、ドコモの5Gプレサービスを活用した8K素材(7680×4320ピクセル)のHEVCライブストリーミング実証実験を実施している。
 アストロデザインの技術開拓リーダー 兒玉隆志氏に、5Gを用いた8Kライブ伝送実証実験のねらいや、今回の課題、今後の方向性などについて話を聞いた(新型コロナウイルスの影響により、関係全社の担当者とはお会いできず、アストロデザインのみに取材をしている)。

パブリックビューイングなどライブならではの活用方法

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今回の実験では、将来的には8Kカメラから5Gで直接映像を伝送できるようになることを想定。作業効率が大幅に改善される

 今回の実証実験では、現行の4K/8K衛星放送に用いられているデジタル放送信号多重化(MMT-TLV)方式で伝送、ISDB-S3方式で変調したのちに、民生用8Kチューナーで受信(復調)している。

 兒玉氏は、具体的な利用シーンのイメージについて、「8Kのリアルタイム映像を館内共聴することが可能となるため、スポーツ等ライブイベントのパブリックビューイング、講演会、遠隔画像診断などを想定しています」という。

 5Gを利用することで、8Kカメラからの映像を無線で伝送できるため、ケーブルの引きまわしや回線申請手続きなどの煩わしさからも解放される。作業効率の向上、機材の簡素化、制作費の低減とともに、取材の自由度が拡大する点で、素材伝送で5Gを活用することは大きなメリットがある。

今後のテーマは、5G周辺の高速化

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送り側(青い機器が8K-HEVCエンコーダ)
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受け側(青い機器がISDB-S3変調器)

 兒玉氏は、事前に課題として掲げられていた点を、5Gと公衆網ネットワークの2つを通る「経路」であったと話す。「8K映像は大容量のデータを伝送するため、特に公衆網ネットワークでの伝送が課題として挙げられていた」(兒玉氏)

 具体的には、これまで使用してきた専用線に比べ、パケットロスやジッタによるエラーも比較的多く発生したという。「パケットロス、ジッタによるエラーの発生は、 5Gを使用したことによる影響は少なく、おそらく公衆網ネットワークを使用したことによって見られる現象であろう。これまで専用線を使用していたときに比べてエラーが多かった」
「公衆網で映像データを伝送する際、パケットロスやジッタは当然のように発生するため、今後はジッタやパケットロスの耐性強化が必要」(兒玉氏)

 また「5Gのリアルタイム性を生かすためには、8K映像のHEVC符号化システムの処理時間をより短くするほか、バッファを極力少なくするなど運用面での工夫も必要になる」と指摘する。

実サービス環境での伝送確認も計画中

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図の中の黄色い部分。MBSから公衆回線を経て送られてきた映像データを実際に5Gで伝送したのは、NTTドコモの関西支社内のみとなる。「今後は、5Gの閉域内でのネットワークを使用できるようにし、ゆくゆくは実際のスポーツイベントで活用したい」(兒玉氏)

 今回はプレサービス中での実験だったが、今後は、実サービス環境での伝送確認をおこなうことも計画しているという。今回の実験では、MBSからNTTドコモへは一般の公衆網ネットワークのみで伝送しており、実際に5Gの伝送が実施されたのは、NTTドコモの関西支社内のみとなる。「今後、NTTドコモの閉域内の回線を活用して、送りから受けまでフルで5Gのネットワークを活用できるようになれば、8K映像伝送でさらに5Gの威力を実感できるはず」と期待を寄せる。

 兒玉氏は、今回の実験を経て、5Gによる8K映像の伝送利用として「実際のスポーツイベントで活用したい」と話す。「具体的には、5Gサービスが予定されているエリアから、8K映像を5G伝送し、イベント会場でのパブリックビューイングで臨場感を味わっていただきたいと考えている。徐々にエリア拡大されれば、スポーツに限らず音楽イベントでも活用できる」(兒玉氏)

課題解決へ向けた次のステップ

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ドコモ5G基地局アンテナ
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ドコモ5Gデータ端末

 今回の各社の役割は次のようになっている。
<NTTドコモ>5Gプレサービスのネットワーク環境および対応端末の提供。
<MBS毎日放送>8K素材の準備、提供。カムコーダー、エンコーダー等の設置場所の提供。アップリンク側回線の準備、提供。VPNルーター、モニタの準備、提供。検証で得たパラメータデータの評価。
<アストロデザイン>伝送システムの設計。5Gデータ通信による検証。検証で得たパラメータデータの評価。8Kカムコーダーの準備、提供。
<ミハル通信>伝送システムの設計。5Gデータ通信による検証。検証で得たパラメータデータの評価。アストロデザイン製クロスコンバータ、8KHEVCエンコーダー、VPNルーター、ISDB-S3変調器、8Kチューナーの準備、提供。

 各社の今後の役割、方向性について、次のようにコメントしている。
 <NTTドコモ>「使用場所や時間帯によらず安定した5Gの提供を実現していく」
 <毎日放送>「充実したコンテンツの提供や各種イベント開催などでの活用を進めていく」
 <ミハル通信、アストロデザイン>「メーカーとして、今回の実験結果をもとにして次の製品仕様へと必要な機能を反映させていく」

(Inter BEE Onlineマガジン 小林直樹)

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