11月18日~2021年2月26日

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Special 2019.12.16 UP

【INTER BEE CONNECTED 2019 セッションレポート】「若年層のカジュアル動画視聴」 ~その実態から探る今後の動画サービスへのヒント〜

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 毎年恒例となった電通メディアイノベーションラボ統括責任者・奥律哉氏のコーディネートによるセッション。定刻の午後3時を待たずに客席はほぼ満員。奥氏はそれに応えるように「3時スタートだが話したいことがあるので」と、2時50分ごろからフライングスタート。「カジュアル視聴」というキーワードを軸とした、てんこ盛りの内容だった。
(関根禎嘉)

YouTubeではテレビにはないジャンル動画が多種多様に

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動画共有アプリの利用時間が長いのは若者だ

 まず、電通メディアイノベーションラボ メディアイノベーション研究部主任研究員の森下真理子氏が、オーディエンスを取り巻くメディア環境について概説する。同ラボでは、「頼りにするメディア」調査を行った。このパートも非常に興味深いのだが、本セッションでは、若者の動画視聴の伸びを牽引するのはスマホでの動画視聴であることを示す、露払いのような役割だ。
 動画視聴と言っても、若者のその行動の大部分は、スマホでドラマや映画を見続けるというものではなく、動画共有サイトでの短尺動画視聴である。この“カジュアル”な視聴の積み重ねなりが膨大な視聴時間として現れてくる。その実態に迫るために、電通はYouTubeを月に2日以上視聴する、全国の15歳から29歳までの約8200人を対象に調査を行った。

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YouTubeのジャンル分けはテレビと大きく異なる

同研究部部長の美和晃氏は「アスキング(調査)をするとわれわれの思いも寄らなかったジャンルが出てくる」と驚く。YouTubeのジャンルには、テレビでは出現しないものが多数登場したのだ。YouTuberがその筆頭だが、その中でも「幅広いジャンル型」と「ジャンル特化型」に分かれるし、これらはさらに、やってみた・実験・チャレンジ系と細分化される。音楽系には作業用BGMがジャンルとして確立しており、ゲームでも実況系、スポーツでは名場面・まとめ動画、料理ではハウツー・裏ワザ、美容・メイクではプチプラ、詐欺メイクなど… つまり、若者の頭の中では“ジャンル×プラットフォーム”で索引が成立しているのだ。これらのジャンル分けは、予備調査で出現した単語をなるべく生かしたという。いわばボトムアップのジャンル分けだ。

テレビでいきなりYouTubeを見る人びとが増えている

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YouTubeの「入口」からユーザーをグルーピング

そして、YouTubeへの入口はどうなっているのかを分類し、10のグループに分けることができた(スライド画像参照)。テレビ番組系を入口とする人たちのグループで注目すべきことは、番組本編を見る人がいる一方、メイキング・名場面・まとめしか見ない人がいるということだ。さらに129のジャンルに渡って分析すると、“本編”派はあらゆる動画を見るが、“メイキング”派の人たちはあらゆるジャンルにおいてまとめ動画しか見ないのだという。この結果から考えられることは、若者に寄り添うためには本編以外の動画を提供することの必要性だ。従来の番組表的なジャンル分けがあまり意味を持たないネットの世界では、メイキング・まとめなどもひとつのジャンルと捉えて、二次加工した動画を流すことの必要性が示されたと言えるだろう。

さて、テレビビジネスの今後を考えるために、話題はテレビ受像機での動画視聴に移る。2019年9月に電通が行った調査では全体の32.7%がネット接続し、17.7%は動画を見ていた。テレビ受像機でのネット動画視聴は増えているわけだが、それはテレビのライブ視聴時間にも影響している。テレビ受像機の利用時間はネット動画視聴実施者は224.2分、非実施者は188.4分と、テレビで動画を見ている人のほうがテレビを点けている時間が長い。しかし、テレビのライブ視聴時間は、ネット動画視聴実施者の方が20分以上少なく、録画再生も少なかったのだ。一体、それぞれのスクリーンの中では何が起こっているのか。テレビの電源を入れたときに、何が映っているか。つまりファーストスクリーンを何かを調べると、動画視聴実施者は地上波以外にしている人の割合が、非実施者より多い。マジョリティが地上波であることは変わりないが、「テレビを点けたらいきなりYouTube」という人が徐々に増えているということだ。動画を見る人はテレビを利用する。奥氏が提唱する「一周回ってテレビ」論がここに表れている。奥氏の「スマホに動画を出すことは大事だが、足下のテレビを押さえることが大事」という主張の説得力は強い。

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テレビが「カジュアル視聴」に寄り添うには

最後にまとめとして、奥氏が楕円の図を示した。「楕円は2点の中心からの距離の輪が一定になる。テレビという軸とカジュアル動画という軸がある。われわれ左側の軸しか見えていないのでは。右側の軸を見ることができれば寄り添えるのでは」と奥氏がこの図に込めたメッセージを説明した。
 普段見えにくい若者の視聴行動を明らかにしたこの調査報告だが、単なるジェネレーションギャップと考えるのではなく、森下氏の言うとおり、これを変化の兆しと捉え「この文脈の理解を進めてい」くことがテレビビジネスにとって必要だろう。同時に求められるのが、「テレビが持っている編集された動画のいい文化を、いかに活用して右側のカジュアル動画の世界に送り込む知恵比べ」(美和氏)だ。そんな提言がされたとき、時計は16時を回っていた。約70分、超特盛のセッションだった。

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